ボクシングコラム!〜日本人チャンピオンの歴史、大場政夫〜
幾多の名ボクサーを排出した、日本ボクシング界だが、
二度と出ることのない、不世出の名ボクサーが、
チャンピオンのまま、悲運の最期を遂げた、大場政夫である。
世界フライ級王座を獲得後、スリリングなファイトで観客を魅了し、
「逆転の貴公子」 と呼ばれた、大場の5度目の防衛戦であったこの試合も、
その名に恥じない闘いぶりだった。
まず波乱は、第1ラウンドに、いきなり起こった。
チャチャイの右フックが大場の顎を撃ち抜き、
いきなりダウンを喫する。
しかも、この時、大場は右足首をねん挫してしまう。
立ちあがり、何とかチャチャイの猛攻をしのぎ、
コーナーに帰ったものの、ラウンド毎に、
右足首を氷で冷やし続けながら闘うという、苦しい展開を強いられる。
KOされるのも、時間の問題と誰もが思ったが、
大場は粘り強く踏ん張った。
逃げるのではなく、敢然と打ち合い、驚くことに、
ラウンドが進むにつれ、動きに冴えを見せていったのは、
チャチャイではなく、大場の方だった。
そして、迎えた12ラウンド、大場は凄まじいラッシュで、
3度のダウンを奪い、見事逆転KO。
年明けの2日に行われた、この試合、
奇跡的な展開に、日大講堂は、歓喜の渦に包まれた。
2階級制覇を視野に入れていた、名ボクサー・大場政夫に、
まさかの悲劇が起こったのは、感動的な試合から、
僅か、23日後のことだった。
愛車のシボレー・コルベットで、首都高速を走っていた大場は、
カーブを曲がり切れず、反対車線で大型トラックと正面衝突。
享年23歳。
世界チャンピオンのまま他界した、唯一の日本人である。